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「走る」にかける想い

ゴール前の混戦。頭を左右に大きく揺らし、がむしゃらに腕を振る。お世辞にもきれいだとは言えないフォームだ。フィニッシュラインのレーンサイドでは、チームメイトが彼の名前を叫んで応援している。

優勝がかかったリーグ最終戦。そこで彼はリレーの代表選手として走っていた。彼の名前はマラカイ・サッグ。カリフォルニア州ソルタナ高校の最上級生で、名門陸上部の中距離走選手。最近めきめきと力をつけ、地元の大会では優勝したこともある。

ただ驚くことに、サッグはほんの一年前まで本格的にスポーツをしたことがなかった。運動らしい運動は体育の授業くらい。放課後は家にこもってテレビゲームをしている少年だった。

そんな彼の人生が変わったのが一年前のこと。男子陸上部のジャスティン・プライス監督が、受け持っていた歴史の授業中に選手の募集をした。大好きなプライス先生の呼びかけに、サッグはある思いを抱いた。

ボクも陸上部で走ってみたい。

思いもよらぬサッグの反応に、プライスは喜びを感じると同時に不安を抱いた。スポーツ経験のない生徒が名門ソルタナ陸上部についていけるのか。そして何よりプライスが心配したのが、サッグ成績。日本と違ってアメリカ高校ではある一定以上の学業成績を修めていないと、部活動に参加することが許されないのである。サッグはこれまで熱心に勉強するような生徒ではなかった。

プライスは教師としてサッグの一つのハンデも知っていた。サッグは学習障害を抱えているため、特定の知識を習得するペースが遅いのだ。そんな彼にとって規定の成績を維持するのは簡単なことではない。

しかし、サッグは一度決めた思いを諦めはしなかった。三年生の彼にとってチャンスは1シーズンしかない(注1)。今成績を上げなければ、もう一生走るチャンスはやってこないだろう。これまで何となく過ごしていた帰宅後の時間を一切勉強にあてて、机の前にかじりついた。

そして彼はその学期、規定の学業成績をとることに成功し、見事チーム入りを果たす。

しかし、そこからが本当の試練だった。運動経験のないサッグは、入部当初はもちろんチームでもビリッけつ。新入生にすら歯が立たない。毎年リーグ優勝候補筆頭に挙げられるソルタナ高校。学業で成績を保ちながら、春シーズン開始までのわずか数ヶ月で、チームに貢献できるほどのレベルに達するとは誰一人思っていなかった。

それでもサッグは自分の決意を信じて疑わなかった。多くの選手が嫌がる中距離走をあえて選び、彼はひたすら練習と学校の勉強に打ち込んだ。

「これまでの自分を変えたかったんだ」とサッグは言う。

ただ何となく過ごしていた毎日から抜け出したい。それだけの思いだった。

陸上部への誘いを受け、チームに入ることを決めてからからわずか一年。プライスにこんなに頑張るやつは見たことがないとまで言わしめたサッグは、驚異的にタイムを伸ばし、チームの正代表に選ばれるまでになった。

そしてやってきた初めての試合の日。彼は地元のライバル校との対戦で、陸上の華とも言われる1600メートルリレー走に出場し、見事チームを勝利に導く。続く競技会ではなんと800メートルと1600メートルの両方で一位を獲得した。

そんな彼の進歩を一番喜んでいたのはプライスだった。

スポーツをしたこともない、ましてやチームに入れるかも微妙だったマラカイが、ここまで来るなんて信じられるかい?下だった成績も、今や上位だよ。彼は一心不乱に頑張った。きっと自分の人生を変えたかったんだろうね。こんなに努力をする選手には初めて出会った。彼をコーチできたことを誇りに思う。」

陸上を始める以前のサッグは、高校卒業後は軍隊に入ることを決めていたという。勉強が苦手だった彼に、大学という選択肢はなかったのだ。だが、それも大きく変わった。

サッグの能力に目をつけた地元の二年制大学の陸上コーチが、彼をチームに誘ってきたのだ。サッグは高校卒業後、そこで中距離を続けることが決まっている。そして今では四年制大学に編入するという目標すら持つようになった。

「できるだけ走っていたいんだ。前までは大学に行こうなんて夢にすら思わなかった。でも陸上のおかげで成績も上がったし、将来は四年制大学に行って陸上を続けたい」とサッグは話す。

以前の彼は、人に必要とされるという感覚を味わうことがなかった。でも陸上を始めてからは、チームのために自分が頑張らなくてはならない、チームメイトの期待に応えたい、そんな気持ちが湧いてきたという。個人競技だと思われがちな陸上でも、サッグはチームの一員として走ることを忘れない。

「チームのために頑張りたい。それが走る一番の楽しみだよ。」

残念ながら、リーグ最終戦はカリフォルニア州でもトップレベルの選手が相手だったため、サッグは個人で一位を獲ることはできず、ソルタナも優勝を逃してしまった。それでもサッグは、800メートルと1600メートルで三位入賞を果たした。

プライスは大会後、サングラスで表情を隠しながらこう話した。

「今日勝てなかったのはもちろん残念だ。でもマラカイのような選手がチームのために必死に頑張ってくれた。コーチとしてこれ以上の喜びはないよ。」

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注1 アメリカ高校は4年制。日本でいう中学校は2年間のところが多い。
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theme : 高校スポーツ
genre : スポーツ

tag : アメリカ 高校 スポーツ 中距離 ソルタナ 陸上 勉強 成績 サッグ

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Author:TomoyaS
アメリカ生まれ、日本育ち。日本で大学を卒業した後、アメリカの大学院でスポーツ学の修士課程を修了。現在はカリフォルニアの新聞社でスポーツライターとして活動中。

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